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大阪地方裁判所 昭和53年(ワ)3698号 判決

以下は、判例タイムズに掲載された記事をそのまま収録しています。オリジナルの判決文ではありません。

【主文】

一 被告は

(1) 原告花光に対し一〇〇万円およびこれに対する昭和五三年七月九日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

(2) 原告井村に対し五〇万円およびこれに対する昭和五三年七月九日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二 被告は原告花光に対し、別紙建物目録(2)記載の建物の北側三階および四階の西寄りの各窓に目隠を設置せよ。

三 原告花光および原告井村のその余の各請求ならびに原告辻本および原告石井の各請求をいずれも棄却する。

四 訴訟費用は、原告花光と被告との間ではこれを三分し、その二を原告花光の、その一を被告の各負担とし、原告井村と被告との間ではこれを四分し、その三を原告井村の、その一を被告の各負担とし、原告辻本および原告石井と被告との間では原告辻本および原告石井両名の負担とする。

五 この判決は一項につき仮に執行することができる。

【判旨】

(1) 本件地域は、住居地域であり、容積率三〇〇パーセント、建ぺい率六〇パーセントの準防火地域に属しており、大阪府建築基準法施行条例(昭和五四年四月一日施行)によれば、日影規制対象区域より除外されている。

(2) 被告建物や原告ら居住各家屋が存する場所は、地下鉄御堂筋線西田辺駅より南約三〇〇mの地点であり、また被告建物は大阪市内の幹線道路である我孫子筋に面して建つており、その周辺には原告ら居住各家屋のような住居専用目的の二階家が多数存在しているものの、被告建物のような高層建築も随所にみられ、本件地域においてこのような建物の高層化の傾向が将来にわたつて続くものとみられる。

(3) かつて被告所有地上には、隣接の毎川所有地(原告ら居住各家屋の敷地)との境界線から二m位の間隔を置いて平家建の工場が建てられていたが、昭和三四年頃火災により焼失し、昭和三八年頃になつて被告がその東側部分約二〇坪に二階建事務所兼居宅を建て、その余の部分に平家を建ててこれを駐車場として使用していた。そのために、原告ら居住各家屋には終日日が当り、また通風も良好な状態であつた。

尤も、原告花光は、昭和四五年頃花光宅の一階部分を被告所有地との境界線約四〇cmのところまで増築し(厨房、別紙図面(2)参照)、これが被告所有地内に存するブロック塀まで約五〇cmと近接したために、右増築部分の日当りは悪く、その天井部分に天窓をもうけ、採光するよう工夫せざるをえなかつた。その結果花光宅は建築基準法に基づき定められた建ぺい率六〇パーセントを超えたものとなつている。

(4) 被告建物は、高さ約一八mの(一部五階)建で、一階および二階の一部が事務所となつており、その余の部分は賃貸用の共同住宅であつて、全体として日当りも通風も良好であり、被告建物自体は花光宅と井村宅と隣接し、その南側に位置しているが、辻本宅および石井宅とは隣接しておらず、辻本宅および石井宅と隣接しているその南側は、被告建物に附属する駐車場となつている。そして、被告建物は、建築基準法にしたがつて建てられているが、毎川所有地との境界線の南側約四五cmのところに建てられている。

(5) 被告建物が建築された後の原告ら居住各家屋の八時から一六時までの間の日照時間は、冬至において、平均地盤面から高さ四mの平面のa点(被告建物に面している原告ら居住各家屋の各南端)、b点(原告ら居住各家屋の各中央)。C点(被告建物より最も遠隔の原告ら居住各家屋の各北端)についてみるとつぎのとおりとなる(別紙図面(3)参照)。

花光宅において

a点〇時間、b点二時間、c点三時間三〇分。

尤も、花光宅の一階部分が増築されたことは前叙のとおりであるが、仮に右増築がなされなかつたとしてもa点(二階南側居室の南向き開口部にあたる)における日照時間は一時間にも満たない。

井村宅において

a点二時間三〇分、b点三時間、c点四時間。

辻本宅において

a点四時間三〇分、b点四時間三〇分、c点五時間。

石井宅において

a点五時間三〇分、b点五時間、c点五時間。

(6) 被告建物が建築された後は、花光宅および井村宅はおおむね通風が悪くなり、また時には所謂ビル風が原告ら居住各家屋に強く当ることがある。

(7) 被告は、被告建物を建築する以前から、被告建物を建築した場合、その影響により原告ら居住各家屋の日照や通風が阻害されることを知つていた。

(8) 昭和五四年一一月には花光宅の東側約七五cmのところに五階建の鉄田病院のビルが建築され、そのため、花光宅および井村宅は早朝の日光をさえぎられ、また通風もかなり阻害されているとみられる。

以上の事実が認められ、右認定に反する原告花光本人尋問の結果部分は採用できず、他に右認定を左右する証拠はない。

(二) 右認定の事実を基礎に検討する。

1 被告建物や原告ら居住各家屋の存する本件地域は、住居地域に属するものの、大阪府建築基準法施行条例によつても日影規制の対象区域より除外されていて、現実にもかなり土地の高度利用化が進みつつあり、被告建物自体大阪市内の幹線道路に面して建てられており、さらには建築基準法にしたがつて建築されていること等を考慮すると、被告が被告建物を建築したことを強く非難することはできない。しかしながら、花光宅および井村宅が従来良好な日照や通風等の自然の恩恵を受けて来たにもかかわらず、被告建物が建てられたことにより、平均地盤面から高さ四mの平面における冬至の八時から一六時までの間の日照時間が南向き居室開口部において、花光宅(その二階南側の居室をとる)については一時間にも満たない状態となり、井村宅については僅か二時間三〇分となり、加えて正常な通風をも阻害されるようになつたこと、他方、被告建物が営利目的で建築されるに至つたもので、被告建物自体全体として日照、通風とも良好な状態にあること等を斟酌すると、被告が被告建物を建築したことにより、花光宅および井村宅は、社会生活上受忍しなければならない限度を超えた日照、通風の阻害を蒙つており、そのため、所有者であり居住者でもある原告花光および原告井村は精神上の苦痛を蒙つていることは明らかである。

したがつて、右のような損害が生ずることを知りながら被告建物を建築した被告には、右原告両名の蒙つている精神上の苦痛を慰藉しなければならない義務があり、本件訴訟に顕れた一切の事情を斟酌し、これを金銭に換算すると、原告花光に対して、一〇〇万円を、原告井村に対して五〇万円を支払うのが相当である。

2 平均地盤面から高さ四mの平面における冬至の八時から一六時までの間の日照時間が南向き居室開口部において、辻本宅および石井宅とも四時間三〇分以上もあり、正常な通風を多少阻害されていることを斟酌しても、土地の高度利用化が進んでおり、大阪府の条例においても日影規制の対象区域から除外されている等の本件地域の特殊性を考慮すると、辻本宅および石井宅は、社会生活上受忍しなければならない限度を超えた日照、通風等の阻害を蒙つているとはいえない。

<中略>

四(1) 被告建物の北側の壁には各階二個ずつの窓があり、そのうちの東寄りの窓は本件とは何ら関係はなく、西寄りにある三階から五階までの窓が本件で問題となつている。

そして右西寄りの各窓は、花光宅の真前で、その境界線より約四五cmの距離に位置しており、井村宅、辻本宅および石井宅の各敷地境界線とは一m以上も離れている。

(2) 花光宅の真前にある三階ないし五階の右各窓は、台所の流台が取付けられている壁面に設けられているものであつて、目隠がない。右三階および四階の各窓についていえば、台所仕事の通常の姿勢では花光宅を観望することはできず、流台越しにわざわざのぞき込むような姿勢をとつたとき、花光宅の南端の二階ベランダ、二階南側居室内の南端窓際がみえる。

(3) 花光宅二階南側居室では、南端窓際に寄れば、被告建物の北側の壁にある西寄りの三階および四階の各窓が目に入るが窓際を離れると被告建物の右各窓は目に入らない。

以上の事実が認められ、右認定に反する原告井村本人尋問の結果および原告花光本人尋問の結果部分は採用できず、他に右認定を左右する証拠はない。

そこで、右事実に基づき検討する。

被告建物の北側の壁にある各階の西寄りの窓は、井村宅、辻本宅および石井宅の各敷地境界線との関係からみると一m以上も離れているから、原告辻本および原告石井が被告に対し民法二三五条に基づき右各窓に目隠を設置するよう求めることができないことは明らかであり、他に特段の事情を認めることができない本件では、右原告らの右各請求は失当である。

進んで、原告花光の右請求についてみると、被告建物の北側の壁にある三階および四階の西寄りの各窓からは通常の姿勢で花光宅を観望できないが、右各窓より花光宅をのぞこうと思えば、その二階の南側居室の一部までものぞくことができるのであつて、その高低差も建物一、二階分程度に過ぎないことを考えると、原告花光において、右各窓から花光宅をのぞかれるのではないかと思案するのも無理からぬことであり、したがつて、被告は原告花光に対し、民法二三五条により右各窓に目隠を設置する義務を負つていることになる。なお、被告建物の北側の壁にある五階の西寄りの窓については、花光宅を観望できる窓と認めるべき証拠はないから、原告花光の右請求のうち、五階の西寄りの窓に目隠を設置するよう求める部分は失当である。

(乾達彦 井深泰夫 市川正巳)

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